Vivianne ChappuisによるITIアカデミーラーニングモジュール「骨再生誘導法の原理」へようこそ。
日本語翻訳協力者: 大島 健吾

抜歯をすると、歯を支える歯槽骨は時間と共に吸収されます。 上顎右側中切歯が欠損しているこの臨床例で示されているように、吸収により歯槽骨の体積が減少します。 骨は唇舌径が大幅に減少し、補綴学的に正しい位置にインプラントを埋入するというインプラント歯学の基本的要件を満たすことができません。 歯槽骨が吸収されると、インプラントを完全に骨内にかつ正しい位置に埋入するために、骨を増生する必要があります。 このモジュールでは、骨再生誘導法(GBR)として知られる骨増生の特殊な技法について説明します。

このITIアカデミーモジュールを修了すると、骨再生誘導法(GBR)の生物学的原理や、臨床テクニックとしてのGBRの進歩を説明できるようになり、適応症を列挙できるようになります。

GBRは、バリアメンブレンを用いて骨欠損内部のスペースを保持するという原理を利用した骨増生法です。 増殖の速い上皮細胞と結合組織の線維芽細胞を、メンブレンが阻むことにより、増殖の遅い骨細胞と血管が、骨欠損内の血餅中に成長できるようにします。 図の通り、骨欠損があります。骨欠損が治癒する時、欠損の断端では部分的な骨の再生が起こりますが、上皮と結合組織が急速に増殖し、増殖の遅い骨細胞よりも先にスペースを占領するため、骨による完全な再生を得ることができません。

バリアメンブレンが骨欠損上に位置付けられると、メンブレンが上皮細胞と結合組織の線維芽細胞の進入を阻むため、スペースが確保されます。 その確保されたスペースを骨細胞が占領することで、新しい骨組織を再生することができます。

骨再生誘導法の概念を裏付けるエビデンスは、1980年代前半のNymanらによる歯周組織再生の研究に基づいています。 この研究では、ろ過フィルターをバリアメンブレンとして使用し、骨縁下の歯周組織の欠損に対して再生を促しました。 この技法は、組織再生誘導法(GTR)と名付けられました。 この技法では、歯肉弁を剥離翻転し、骨欠損を覆うように周囲の既存骨にメンブレンを適合させ、歯頸部に結び付けます。 その後、メンブレンを覆うように粘膜骨膜弁を復位して閉創します。 メンブレンは、上皮および結合組織細胞が欠損内に侵入するのを防ぎます。 増殖の遅い骨細胞と歯根膜細胞は、確保されたスペースを徐々に満たし、骨と付着を再生します。

1980年代後半、Dahlinらはこのバリアメンブレンの原理を応用して、前臨床試験の実験的骨欠損における骨組織の再生を証明しました。この「原理証明」研究では、標準化された「スルーアンドスルー」の骨欠損がラットの下顎角に形成されました。片側の欠損はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンで覆われましたが、反対側の欠損は対照として、介入なしで治癒させました。 PTFEメンブレンで処理された側は、3週間と6週間で欠損内の骨組織の完全な再生を示しました。一方で、未治療の対照側の欠損は、骨は再生せず、結合組織と筋組織が複合したもので満たされていました。この研究は、バリアメンブレンによって保護された骨欠損が、完全な骨再生をもって治癒できるという根拠を確立しました。その後、著者らは、原理証明を確認するサルモデルでの追跡調査を発表しました。

骨再生誘導法の原理を応用して、露出したインプラント表面に骨を再生できるかどうかを調べる研究が行われました。この研究では、ウサギの脛骨にインプラントを埋入し、インプラントの頬側に裂開状の骨欠損を形成しました。 実験群のインプラントは、スペース確保のため、延伸PTFE(ePTFE)で作られたメンブレンで被覆されましたが、対照群のインプラントはメンブレンなしで治癒させました。 インプラント上で軟組織を閉鎖し、6・9・15週間の治癒後に組織標本を採取しました。 メンブレンで覆われた実験群のインプラントは、対照群よりも有意に多くの骨を再生しました。 さらに、組織検査では、新しく再生された骨が、あらかじめ露出させたインプラント表面と正常に結合したことが示されました。

1994年にSchenkらが行った研究で、誘導骨の生物学的原理がより強く立証されました。この研究では、4匹のフォックスハウンド犬の下顎第一小臼歯を抜歯し、歯槽骨を3か月間治癒させました。標準化された歯槽頂骨欠損が、顎骨の両側に作られました。無作為化後、骨欠損の一方はePTFE製のバリアメンブレンで被覆されました。バリアメンブレンは骨スクリューで固定されました。残りの骨欠損は未治療の対照群としての役割を果たしました。これらの骨欠損にはメンブレンが設置されず、介入なしで治癒させました。2か月および4か月の治癒後に組織標本を作製しました。対照群の骨欠損では、骨再生が欠損の辺縁に限局していました。骨欠損によってつくられた最初のスペースは崩壊し、骨壁の端からの部分的な骨再生のみが起こっていました。一方で、バリアメンブレンで保護された骨欠損では劇的な違いを認めました。ほとんどの骨欠損が新しい骨と骨髄で満たされていました。4ヶ月までに、皮質および海綿骨の再生が完了し、骨のリモデリングが始まりました。バリアメンブレンで保護された欠損の骨修復は、骨の発達および成長の様式に似ていました。重要な所見は、メンブレンで保護されていたいくつかの部位において、メンブレンの部分的な崩壊により骨欠損が4か月で完全に治癒しなかったことでした。この問題については、モジュールの後半で扱います。

要約すると、生物学的事象は次のような順序で起こります。まず、骨欠損がバリアメンブレンで覆われ、骨とメンブレンの間に閉鎖腔ができます。 次に、周囲の骨髄からの出血が、血餅または血腫の形成を引き起こします。 メンブレンが、非骨形成細胞すなわち上皮細胞および線維芽細胞を排除するための物理的障壁として機能し、それにより、成長の遅い骨細胞と血管が骨欠損部の血餅内に増殖できるようにします。 新しい血管の成長、アンギオジェネシス(血管新生)により、骨芽細胞の遊走と骨基質の沈着が開始されます。 骨再生は、骨成長の規則的なパターンに似た一連のステップで進行します。つまり、骨のリモデリングと正常な骨構造への組織化が進行します。

GBR法の予知性は、メンブレンによる空間の確保だけでなく、治療される骨欠損の形態にも依存します。 骨壁は、骨欠損部に、骨と骨髄の露出面を供給します。 骨髄からの骨形成細胞は、新生された血管に沿って欠損部の血餅内に移動することができます。 2つから3つの骨壁が存在していれば、血餅は保持され、治癒期間中に動いたり崩れたりする可能性が低くなります。

骨再生誘導法の生物学的原理、重要な学習ポイント:GBRは、成長の速い軟組織細胞を骨欠損部から排除し、成長の遅い骨細胞と血管の内部増殖を可能にするという原則に基づいています。バリア メンブレンは、骨欠損とその中の血餅を保護するために使用されます。 研究によると、GBRは、骨のリモデリングと正常な骨構造への組織化を伴う、皮質骨と海綿骨の再生をもたらしました。 予知性の高い骨再生には、2つまたは3つの骨壁が必要です。

インプラントを3次元的に理想の補綴位置に埋入すると、インプラント周囲の骨が欠損を生じることがあります。 インプラントが完全に骨組織で覆われるように、骨を再建する治療が必要となります。 これにより、インプラントの粗面部分が口腔内に露出することを回避できます。もし露出すると、細菌性バイオフィルムの形成やインプラント周囲組織の感染のリスクとなります。 治療の目標は、頬側および舌側の骨壁の厚さが少なくとも1.5mmであることを確認することでもあります。 審美的な領域では、軟組織の適切なサポートと安定性を確保するために、唇側の骨壁の厚さを少なくとも2mm以上にすることをお勧めします。 GBRを使用すると、術者はこれらの条件を満たさない吸収された歯槽骨にも、インプラントを適切に埋入することができます。 次のスライドでは、GBR技術と材料の発展について概説します。

骨再生誘導法の生物学的原理が実験的研究で確立されたことにより、1990年代初頭に臨床研究がすぐに続きました。これらの研究により、骨再生誘導法の原理が、インプラント治療を必要とする患者にうまく適用できることが確認されました。 1991年のこの臨床例では、患者は片側上顎の小臼歯と大臼歯が欠損していました。 2つのワンピースインプラントが第一、第二小臼歯部に埋入されました。第一小臼歯部のインプラントは、裂開状骨欠損が存在したため、頬側が骨で完全に覆われていませんでした。ドリル孔が皮質骨から欠損部周囲の骨髄腔に開けられました。これは、骨髄からの骨再生細胞と新生血管の成長の可能性を高めるためにおこなわれました。同側の臼後部から採取した自家骨片を、骨欠損部とドリル孔の上に移植しました。非吸収性ePTFEメンブレンをトリミングし、骨欠損と移植骨に適合させました。メンブレンに2つの穴を開けることで、インプラントのネックを取り囲むようにメンブレンを固定することができました。

6か月後、インプラントは粘膜下に完全に埋まったままでした。 2次手術の際、第一小臼歯部インプラント頬側部の術前に骨欠損があった領域で、骨の再生が確認されました。 これらのインプラントは、その後、連結固定の補綴物で修復されました。 15年後の2006年には、インプラント周囲の組織は健康であり、X線写真で安定した骨の状態が確認されました。

骨再生誘導法を臨床的に成功させるためには、バリアメンブレンが重要な要素であり、理想的には特定の基準を満たす必要があります。材料は生体適合性があり、人体組織に十分に許容される必要があります。それらは、患者にとって安全性の懸念や危険性があってはなりません。これに関連して、2つのタイプのメンブレンがあります。それは不活性で人体組織で分解しないものと、吸収性のものです。吸収性材料は、分解生成物が人体組織に放出されるため、組織反応を引き起こす可能性が高くなります。材料は細胞遮断性である必要があります。つまり、再生を意図している骨欠損内部に、結合組織細胞が侵入するのを防ぐことができる必要があります。しかしながら、ある程度の透過性は有益であると考えられています。なぜなら、栄養素がメンブレンを通過するのを容易にすることが、骨の再生にとって重要であるかもしれないからです。メンブレンは、その表面にいくらか結合組織が付着し、内部増殖できるようにする必要があります。これにより、治癒期間中の創部の安定と機械的支持が向上します。メンブレンは、最初の血餅が形成される骨欠損領域に、スペースを形成し維持できる必要があります。メンブレンが骨欠損内に崩壊した場合、スペースが失われ、再生される骨量が減少します。したがって、材料の剛性は重要な要素です。最後に、材料は臨床的に操作性が良いものでなければなりません。適切な形状に手早くトリミングでき、手術部位に簡単に適合させられる必要があります。

臨床使用のために開発された最初のメンブレンは、延伸ポリテトラフルオロエチレン、つまりePTFEから作られました。 ePTFEには3つの主な問題があることが明らかになりました。第一に、これらのメンブレンは剛性に欠け、特に骨欠損が大きい場合、欠損内に崩れてしまう傾向がありました。第二の問題は、材料の操作性が悪いということでした。 ePTFEは疎水性であるため、欠損部周囲の骨に簡単に適合しません。断端がすぐに持ち上がるため、それを固定するのに骨スクリューまたはタックが必要となります。メンブレンを、歯肉弁内に含まれる隣接歯から少なくとも1.5mm以上離すよう注意する必要もあります。これにより、創傷治癒期間中に歯肉溝を介して細菌性プラークがメンブレンに定着するのを防ぎます。 ePTFEメンブレンは、創部の裂開や早期のメンブレン露出の発生率が高いことにも関連していました。早期のメンブレン露出はしばしばプラークの蓄積と周囲の軟組織の感染をもたらしたので、重大な合併症でした。その結果、早期のメンブレン露出は、ほとんどの場合、インプラント周囲の骨再生量の減少につながり、妥協的な治療結果をもたらしました。これらのメンブレンは非吸収性であり、除去するために2回目の外科処置が必要でした。 2次手術の必要性は患者にとって不利益であり、軟組織が治癒するための追加期間があるため総治療時間が長くなりました。

のちに、高密度PTFEメンブレンやチタン強化型PTFEメンブレンなど、他の非吸収性メンブレンが開発されました。 しかし、これらのメンブレンは、早期のメンブレン露出、臨床的操作性の悪さ、そして、それらを除去するための2次手術の必要性という同じ問題を呈しました。 PTFE製のメンブレンは市販されていますが、以前ほど広く使用されてはいません。

非吸収性ePTFEメンブレンに関連する臨床的問題は、吸収性メンブレンの研究開発に繋がりました。 現在使用されている材料には、高分子メンブレンとコラーゲンメンブレンの2つの主要なタイプがあります。 高分子メンブレンは、合成ポリエステルのポリグリコール酸またはポリ乳酸、あるいはこれら2つの材料の共重合体でできています。 それらは厳密に管理された条件のもとで大量生産することができます。 人体組織内で、それらはクレブス回路を介して完全に生分解し、二酸化炭素と水を生成します。 これらのメンブレンの主な欠点は、それらの生分解が多核巨細胞の存在および軟組織における炎症反応に関連していることです。

今日、骨再生誘導法で使用するコラーゲンメンブレンのほとんどは、I型コラーゲンまたはI型とIII型コラーゲンの組み合わせでできています。 コラーゲンは、主にウシまたはブタを材料とした動物由来です。 コラーゲンメンブレンは、マクロファージと多形核白血球の酵素作用によって急速に生分解します。 生分解の速度を遅め、それらのバリア機能を延長するために、いくつかの製造業者はコラーゲンを架橋構造にします。 グルタルアルデヒドによる架橋が最も広く使用されている方法ですが、製造過程でメンブレンに細胞毒性残留物が残る危険性があります。

吸収性メンブレンの主な利点は、合併症の影響を受けにくいことです。 早期のメンブレン露出が発生した場合、4週間以内に二次的な軟組織の治癒が起こり、骨の再生結果は良好なままです。 コラーゲンメンブレンは、操作性も良く、血液や生理食塩水で濡らされると手術部位にうまく適合します。 さらに有意義なことに、メンブレンは生分解するため、2次手術によりメンブレンを除去する必要がありません。 主な欠点は、架橋されていないコラーゲンメンブレンが、スペースを維持する特性がないため、簡単に崩壊してしまうということです。

次の臨床的問題は、メンブレンの崩壊でした。 より大きな骨欠損では、吸収性または非吸収性の材料で作られたメンブレンは、剛性がないため、欠損内に崩れてしまう傾向があります。 この傾向を減らし、メンブレンの崩壊を防ぐために、いくつかの方法が導入されています。 最も一般的な方法は、メンブレンの下に骨移植片または骨代替材を組み込むことです。 移植片は欠損内の空間を満たし、メンブレンを支え、崩壊を防ぎます。 自家骨移植片は骨形成能が高いですが、経時的に吸収されて体積が減少する傾向にあります。 骨代替材または置換率の低い骨補填材は、体積を維持するのに優れていますが、骨形成能はありません。

現時点では、理想的な骨移植材料はありません。 現在、自家骨と脱タンパク牛骨ミネラルなどの骨補填材との複合移植骨が一般的に使用されています。 これらの複合移植骨は、体積維持のために置換率の低いの骨補填材と組み合わせて、自家骨の骨形成能を保持します。

メンブレンを支持する他の方法には、PTFE材料への屈曲可能なチタンフレームワークの組み込み、メンブレンを支持するためのテンティングスクリュー、手術部位に合わせて成形し適合させることができるチタンメッシュがあります。

GBR技術の発展、重要な学習ポイント:PTFEメンブレンは、操作性の悪さ、軟組織の裂開、メンブレン除去の必要性のために、その優位性を失っています。 吸収性メンブレン、特にコラーゲンで作られたものが、日常臨床で最も普及しています。 メンブレンの支持は、主に、自家骨、骨代替材、またはその2つの組み合わせのいずれかの移植材によって成されます。 生体分解性コラーゲンメンブレン、移植骨および骨代替材の使用は、GBR技術を簡素化しました。 メンブレンを固定する必要はもうありません。メンブレンの支持は、移植骨と骨代替材によって成されます。 吸収性メンブレンの使用は、早期のメンブレン露出のリスクを低減し、もし発生した場合でも軟組織の自然治癒が期待できます。 メンブレンを取り除く必要がないので、2次手術はもはや必要ありません。

ここでの学習目標では、GBR技術を応用できる様々な臨床所見を考察することです。GBRはインプラントが完全に骨に埋め込まれるということを確立するためにおこなわれます。まず、GBR法は、アピカルフェネストレーション(根尖部の開窓状骨欠損)が発生したときに骨を増生するための信頼できる手段です。この骨欠損は、根尖領域で骨の厚みが不十分な部位に、補綴的に決定された位置でインプラントを埋入したときにしばしば発生します。インプラントの一部が露出していますが、歯冠側の骨は無傷で、インプラントのネック部は骨で覆われています。これらの欠損は通常、予知性が高くインプラント埋入と同時に治療することができます。この臨床例は、上顎右側犬歯にインプラント埋入をおこなう際のアピカルフェネストレーションの対処を示しています。歯肉弁の翻転とインプラント窩の形成に続いて、インプラントは良好な初期固定で埋入されましたが、フェネストレーションがインプラント体に沿って発生しました。新しい血管の形成と骨細胞の遊走を促進するために皮質骨にドリル孔を開けたのち、インプラントの露出面を自家骨片で被覆し、さらに細粒状の牛骨ミネラルの層で被覆しました。その後、吸収性コラーゲンメンブレンを移植骨上に適合させました。臨床画像とX線写真は、10年後も審美的なエマージェンスプロファイルと安定した歯槽頂の骨高径を獲得できていることを示しています。

骨再生誘導法は歯槽頂骨欠損に対応するためにも使用されます。これは治癒途中の抜歯窩にインプラントを埋入する際に一般的に認められる骨欠損です。 歯槽頂骨欠損の形態が良好であれば、インプラント埋入と同時にGBRを行うことができます。 インプラント周囲の骨欠損が同時骨増生に有利であるか不利であるかの決定要素は、骨欠損に存在する骨壁の数です。 もしインプラント周囲の欠損に2つまたは3つの無傷な骨壁があるならば、同時骨増生に有利な条件となります。 図において、骨壁を矢印で示します。 2壁および3壁性の骨欠損は、新鮮または治癒途中の抜歯窩によく認められます。 これらの骨欠損は歯槽骨のエンベロープ内にある、または含まれていると、一部の臨床医は言います。 2壁および3壁性の骨欠損は、最も予知性の高い細粒状骨および/または骨代替材を用いて、骨移植されます。

一方、欠損に骨壁が1つしかない、または全くない場合、その欠損は同時骨増生に不利であるとみなされます。 これらのタイプの骨欠損は、抜歯後長期間経過した部位で一般的に発生します。 このような状況では段階的アプローチを適応する必要があります。これには通常、自家ブロック骨移植を細粒状移植材で補う骨増生が必要となります。

この臨床例では、3壁性の骨欠損を持つ上顎左側中切歯部に対し、インプラント埋入と同時にGBRをおこなっています。 インプラントを適切な3次元的位置に埋入後、インプラント唇側面の一部が露出しました。しかし、インプラントは初期固定を得ており、3つの骨壁に囲まれていました。 露出したインプラント表面は、手術部位の近くから採取した自家骨片で被覆されました。 その自家骨の上に、吸収の遅い骨代替材が移植されました。 その後、移植骨を吸収性メンブレンで覆い、テンションフリーの縫合で軟組織を一次閉鎖しました。 術後6年において、粘膜のレベルとカントゥアは反対側同名歯と近似しており、CTの矢状断画像はインプラント唇側に移植された骨の厚みと高さが適切であることを示しています。

軟組織が治癒する4〜8週間後の早期インプラント埋入は、通常、即時インプラント埋入の代わりにおこなわれます。 しかしながら、これはしばしば、薄い唇側歯槽骨の大部分を構成する束状骨の吸収のために、前歯部のインプラントの唇側にクレーター様の骨欠損をもたらします。 「カントゥアオーグメンテーション(歯槽骨部の豊隆増大)」と呼ばれるGBR法を使用して、インプラント埋入時のこの歯槽堤の変化を補うことができます。 カントゥアオーグメンテーションでは、安定で審美的な結果を得る環境作りのために、GBR技術を使用して唇側骨壁を意図的に過増生します。 過増生の際も天然歯根の豊隆を模倣します。 臨床研究は、カントゥアオーグメンテーションが唇側骨壁を確立し、長期的に維持するための効果的な技術であることを示しました。

抜歯を計画する際、ソケットの形態、特に唇側の骨壁の状態を評価することが重要です。 上顎左側中切歯のX線画像に示されているように、外傷や感染によって唇側骨壁が欠損している場合、または大きな骨欠損がある場合は、骨増生が不可欠です。 このような状況では、GBR技術を用いた歯槽堤保存を組み合わせる抜歯が推奨されます。 歯槽堤保存は、抜歯時に行うことができます。また、感染がある場合は、抜歯後数週間で感染が解消されてからおこなうことができます。 残存する歯槽堤の形態または大規模な骨欠損によって、補綴的に決定した埋入位置でインプラントの初期固定が達成できないことが予想される場合、インプラントを埋入すべきではないということを留意しなければなりません。

この臨床例では、最小限の侵襲で抜歯をおこなったのち、抜歯窩と唇側骨壁の外側の両方に、置換率の低い骨補填材を使用して骨移植をおこないました。 次に、移植部をコラーゲンメンブレンで被覆しました。

抜歯窩と唇側の骨移植およびバリアメンブレンの使用にもかかわらず、骨吸収およびリモデリングのプロセスは、歯槽堤唇側面の平坦化につながる可能性があることに留意しなければなりません。

GBRは、治癒後長期に経過した抜歯部位の骨増生にも適応されます。 その場合は段階的アプローチの適応となります。これらは通常、1壁性または壁がない骨欠損であり、そのような欠損は、インプラント埋入と同時の骨移植に必要となる移植材の保護と安定を得ることができません。 この臨床例では、理想の歯槽堤のカントゥアを得るために、皮質海綿骨ブロックを欠損部に固定し、その後、ブロック骨と周囲を細粒状骨移植材で一層被覆しました。 スクリューによる移植骨の安定化、メンブレンの設置、およびテンションフリーでの歯肉弁の一次閉鎖は、段階的骨増生を成功させるための基本条件です。 ブロック骨と細粒状移植骨が十分に結合する術後4〜6か月の時点で、固定用スクリューを除去してインプラント埋入をおこないます。

増生部へのリエントリーおよび固定用スクリューの除去をおこなうと同時に、2ピースインプラントを補綴的に決定された3次元的位置に埋入しました。その際、インプラントの唇側に十分な厚みの骨があることを確認する必要があります。

上顎臼歯部において、インプラント埋入に必要な骨の高径や幅径が不十分な場合、上顎洞底挙上と組み合わせてGBRを行うことが推奨されます。 上顎洞底挙上(SFE)は、上顎洞の含気化および/または歯槽骨の垂直的な吸収が生じた上顎臼歯部にインプラント埋入をするための骨増生法です。このGBR/SFEの組み合わせ手術は、インプラント埋入と同時、または段階的な手順でおこなわれます。この臨床例では、患者は右側上顎第二小臼歯と第一大臼歯の補綴を希望しました。X線写真と臨床検査で、第一大臼歯部において歯槽頂の垂直的骨吸収と頬側の平坦化を認めました。コーンビームCTで、垂直的および水平的な歯槽骨の不足を認めましたが、インプラント埋入と骨増生を同時におこなうのには十分な骨量でした。

同意を得られた治療計画は、インプラント埋入と同時にGBRとラテラルウィンドウテクニックによる上顎洞底挙上をおこなうというものでした。上顎洞側壁の骨を除去したのち、上顎洞粘膜を挙上しました。その後、インプラント窩の形成をおこないました。次に、自家骨片と骨代替材の複合移植骨を挙上した上顎洞内に填入し、続いてインプラントを埋入しました。 第二小臼歯部のインプラントはフェネストレーションを認めました。アピカルフェネストレーション(根尖部の開窓状骨欠損)を自家骨片で被覆し、さらにその上から、手術部位をカントゥアオーグメンテーションのために細粒状骨代替材でもう一層被覆しました。 X線写真にて上顎洞底が適切に挙上されていることを確認しました。

6か月の治癒期間ののち、連結冠による固定性補綴装置を装着しました。 審美的な理由から、咬合接触を与えない遠心カンチレバーを用いました。 1年後、インプラント周囲の軟組織は健康で、骨の状態は安定していました。

GBRの最後の適応症は、インプラントの除去後の歯槽堤の保存です。 インプラント除去の理由は様々ですが、進行性の骨吸収を惹起する再発性のインプラント周囲炎、インプラントの破折、不正な埋入位置などがあります。 失敗または破折したインプラント周囲の骨の保存および増生は、インプラントの再埋入を容易にするだけでなく、予知性も高めます。GBRは同時法においても適応できます。それは、失敗したインプラントを除去し、新しいインプラントを3次元的に正しい位置に埋入し、カントゥアオーグメンテーション(歯槽骨部の豊隆増大)のためにGBRを行うというものです。

この臨床例に示されているように、失敗したインプラントの骨欠損が重篤である場合、インプラント除去後の局所的な歯槽堤増大として段階的GBRが用いられ、治癒期間後に新しいインプラントを埋入できます。

GBRの適応症、重要な学習ポイント:骨再生誘導法を使用してインプラント埋入と同時に治療できる骨欠損には、アピカルフェネストレーション(根尖部の開窓状骨欠損)、2壁または3壁性の歯槽頂骨欠損、カントゥアオーグメンテーション(歯槽骨部の豊隆増大)などがあります。同時骨増生に適さず、段階的GBRアプローチで治療する必要がある臨床所見には、1壁性または骨壁のない歯槽頂骨欠損、長期に経過した抜歯部位、および歯槽堤保存が必要であった抜歯部位などがあります。GBRは、上顎洞底挙上やインプラント除去と組み合わせて行う場合、状況に応じて同時または段階法で適応できます。

モジュールの概要・骨再生誘導法の原理:GBRは、バリアメンブレンを用いて非骨形成性の細胞の侵入を阻止することにより、欠損内の骨再生を促進するという原理に基づいています。 GBRは、骨形成細胞および血管新生細胞の供給源となる血餅を保持しやすい2-3壁性の骨欠損で最も予知性が高くなります。 最も一般的なテクニックでは、自家骨および骨代替材を吸収性コラーゲンメンブレンで保護します。このテクニックの利点は、早期のメンブレン露出のリスクが低いこと、軟組織の治癒が良いこと、外科的介入が少ないことなどがあります。 同時法、段階法の使い分けは、周囲組織の状況や骨欠損形態に依存します。