Merete AaboeによるITI Academy学習モジュール「歯槽骨温存テクニック」へようこそ。
日本語翻訳協力者: 志村 俊一
顎骨の歯槽突起(歯槽骨)は、歯の萌出、歯根の形成と伴に成長発育します。歯槽骨、歯周靭帯(歯根膜?)、セメント質、歯は一塊として発達、そして構成されます。歯槽突起(歯槽骨)の大きさは顎骨の範囲内で大きく異なり、それは歯の形態により歯槽突起の発育にもに関連しています。遺伝的要因も、歯槽突起の大きさを決定する際に役割を果たす可能性があります。歯槽突起は、歯槽骨(組織学的には束状骨として知られている)と支持骨の2種類の骨で構成されている。束状骨が歯槽の内側を構成し、残りの部分は支持骨で構成されています。束状骨は、歯周靭帯を歯槽骨に接続するセメント質に似た歯周組織です。歯が抜かれると、この発育組織は代謝変更され、歯槽突起が吸収されます。
十分は歯槽堤の幅があれば、3次元的に適切な位置関係でインプラントの配置ができ、インプラントおよび軟組織に適切な機械的な支持を与えれます。
歯槽堤の吸収は抜歯後に必然的に起こります。十分な厚さの骨壁がインプラントの長期的な予後に関連するため、この吸収を防止または低減することが望ましいと考えられています。歯槽骨の温存とは、抜歯時に存在する既存骨のボリュームを保存、維持する一つの方法として定義付けられるかもしれない。
このITIアカデミーモジュールを完了すると、歯槽骨温存の適応や歯槽骨温存の技術、歯槽骨温存の合併症について説明することができるようになるはずです。
抜歯窩の治癒過程により、抜歯部位の寸法変化が変わります。これらの変化の結果、硬組織と軟組織の組み合わせである歯槽堤が減少します。この減少は、水平方向と垂直方向の両方で発生します。萎縮の量はさまざまな要因の影響を受けます。このうち、抜歯窩壁の厚さは、歯槽吸収プロセスの基礎となります。それが薄い場合(たとえば、1 mm未満)、それはすぐに再吸収され、以前は歯根が占めていた空間に軟組織が折りたたまれます。それが厚い場合(つまり、1 mmを超える場合)、破骨細胞の活動は壁を完全に吸収せず、以前に根が占めていた空間の一部が保持される可能性があります。
歯槽堤の変化は、舌側または口蓋側よりも頬側表面に沿って大きく減少するのが特徴です。骨の垂直高さの変化は通常穏やかです。 抜歯後の残存隆起の高さと幅の変化量に関する系統的レビューでは、高さの平均減少は約1.7 mmであることがわかりました。反対に、水平歯槽骨幅の変化はより大きいです。同じ系統的レビューで、歯槽堤幅の平均減少は約4 mmと計算されました。この減少の3分の2は、抜歯後の最初の3か月以内に発生します。
AraújoとLindheは、犬モデルの実験的研究で抜歯後の無歯顎の歯槽骨の変化について説明しました。黄色の矢印で示されているように、8週間の治癒経過後、頬壁のマージンが約2 mm根尖側に移動しました。抜歯窩の治癒中の骨吸収は、いくつかの理由で舌側よりも頬側が大きくなります。第一に、頬側の骨壁の歯槽骨頂部は、特に前歯部において、主に束状骨で構成される。束状骨は、抜歯後に完全に吸収される歯に依存する組織です。それどころか通常、舌側または口蓋側抜歯窩には、束状骨は小さな割合でしか存在しないです。また抜歯窩の舌側壁は頬側壁よりも厚いです。
抜歯後の歯槽骨の減少に影響を与えるものとして、多くの要因が示唆されています。これらには根尖性病変のように抜歯に至る前までの骨への継続的なダメージや異常な骨萎縮を引き起こすといった抜歯前の病理組織学的な経過が含まれています。他の要因には、薄い骨の存在と欠損歯数などが考えられます。欠損歯数が多いほど、歯槽骨の萎縮は大きくなります。過度の力による抜歯処置もまた、歯槽骨の減少に関与します。
抜歯後の歯槽骨の変化として重要なポイントは以下のとおりです:歯の喪失は、歯槽堤の変化または歯槽骨の萎縮を引き起こします。歯槽骨の幅の減少は、歯槽骨の高さよりも大きいです。 歯槽骨の変化の量は、歯槽骨壁の厚さに依存します。頬側の骨壁は舌側または口蓋側の壁よりも薄いため、寸法変化は抜歯窩の頬側でより顕著になります。複数の要因として、抜歯前の病理学的な経過、薄い骨の存在、欠損歯数、および過剰な外力による抜歯術などが歯槽骨の吸収に影響を与えます。
抜歯後の寸法変化は、まず抜歯窩壁の吸収を引き起こします。最初に説明したように、これらの変化は抜歯後治癒の3か月間がより顕著で、歯槽骨の頬側で主に観察されます。歯槽骨温存治療は、これらの骨代謝に対し多くの改良をしてきました。これにより、抜歯後に発生する局所的な抜歯窩辺縁骨の喪失を防ぐことは、さらなる欠損補綴法の必要性を減らせます。歯槽堤の温存は、抜歯後における水平的な歯槽堤の減少には大きな影響があるとしても、抜歯後の垂直底な骨幅の減少にはわずかな影響しか持たなかったことは注意しなければならない重要なことです。ただし、歯槽骨の温存には制限があります。頬側の骨壁の厚さ全体を維持することはできません。また、審美的な領域や歯周組織の菲薄な患者によく見られるように、非常に薄い頬側壁の喪失を防ぐことはできません。これらの状況では、特に前部領域で、インプラント埋入時に同時の骨増設が依然として必要になる場合があります。
歯槽骨温存の手順は、ポンティック部の歯槽骨幅の温存が望まれるときやインプラント埋入時期が遅延される時に行われることが示された。インプラントの埋入は、骨量がない場合や若年層の発育成長の最中において抜歯窩の形態が理想的な補綴位置にインプラント埋入ができない場合、患者がインプラント治療を行う余裕がない場合、埋入そのものが医学的理由により禁忌である場合は遅延となるかもしれない。このような状況下では、患者がインプラント治療を待っている間に、必然的に引き起こるであろう骨のモデリングを減らすために、歯槽骨温存が行われるとされています。抜歯後の部位へのインプラント埋入は、通常、少なくとも2つの無傷の骨壁が残っていれば、高い予測可能性を備えた骨増設術で管理できます。ただし、抜歯からインプラント埋入までの待機時間が長くなると、歯槽骨の吸収が進行するため、骨量が同時に失われる程度まで骨量が減少する可能性があります。抜歯と埋入の間に長い間隔が予想される場合は、歯槽骨温存術を実施して、その後の増設術の予測可能性を高めることができます。
いつどんな時でも適応がある場合は、禁忌もまたあります。例えば、患者が必要な抜歯以外の処置のように、不必要な外科的処置を制限する病気を有する可能性があります。これらの医学的な既往は、後のインプラント埋入を制限することもあります。抜歯部位での急性感染はインプラント埋入時には解決されてなければならなく、同時または段階的な骨の増強が非感染状態で行われる必要があります。禁忌ではないかもしれませんが、抜歯即時またはその後6〜8週間以内にインプラントを埋入する場合、歯槽骨温存術を施行してもメリットはほとんどないようです。厚い抜歯窩壁を示す歯周組織が厚い患者など、一部の患者では、自然治癒によりインプラント埋入に十分な量の骨が生じる可能性があります。これらの患者では、歯槽骨温存術は必要ありません。
歯槽骨温存の適応症、主要なポイント:歯槽骨温存術は、歯槽骨の吸収を完全には防ぐものではありません。いくらかは主に頬側壁の喪失が原因で必然的に発生します。歯槽骨の保存は、主に歯槽骨の幅に影響します。歯槽骨を温存することは、さらなる再建術の必要性を減少しますが、インプラント埋入時の骨造成が必要になる場合があります。歯槽骨温存治療は、抜歯即時埋入の場合、または歯周組織が厚く抜歯窩の壁が厚い患者では行われません。
抜歯は、頬側壁の損傷を防ぐような方法で行う必要があります。無傷の頬側壁は、脆弱な治癒組織を適切に保護してくれます。抜歯による外科的侵襲は、周囲骨へ微小な外力を生じさせ、さらなる骨吸収の促進となります。したがって早期埋入や即時埋入する場合は、表面の骨壁でのさらなる骨損失を防ぐためにフラップレスのような低侵襲抜歯が推奨されます。フラップ剥離・翻転するとこの操作自体が、骨表面の表面的吸収を引き起こす可能性があります。抜歯時に抜歯窩内は、いかなる病変をも取り除く必要があります。ルアーキュレットなどの器具を使用して、残存する病変を探索し、歯槽窩内壁の創面切除(デブライドメント)を行う必要があります。
歯槽堤の寸法の減少を防ぐために、移植材を抜歯窩に適用します。この材料は、自家骨、同種または異種起源の生体材料、または同種骨の代用骨があります。どの材料が最良の結果をもたらすかについてどの文献も決定的ではありませんが、一般に材料は吸収が遅く、生体適合性があり骨伝導性でなければなりません。この組織像は、宿主の骨に囲まれた様相を示しています。吸収性の高い移植剤は、インプラント埋入時に移植材の残存粒子のない骨の形態を可能にしますが、長期的に歯槽堤の容積を維持する能力は、無機質な移植材に比べ劣る可能性があります。
選択した材料は、骨の内部成長のための永続的な足場として機能し、元の歯槽骨のサイズのほとんどを維持する必要があります。生体材料は破骨細胞の活動によって除去されるべきではなく、代わりに抜歯窩に留まり、宿主の骨に組み込まれるべきです。骨伝導性およびミネラル化されたグラフト材料の使用は骨の治癒を促進しませんが、歯槽骨のボリュームをよりよく維持できる可能性があります。これは、将来のインプラント補綴物の審美性と機能の両方にとって非常に望ましいものです。
移植材を抜歯窩内に設置後は、その移植材を保護しその排出を避けるために抜歯窩を閉じる必要があります。閉鎖する前に、移植材を膜で覆うことがあります。膜は、吸収性のものであれば最も頻繁にはコラーゲン膜、または非吸収性であれば、ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)膜です。吸収性膜の使用が望ましく、軟組織の閉鎖に関して非吸収性膜は吸収性膜よりもより厳格です。また、非吸収性膜を使用すると、軟組織裂開の発生率が高くなります。
メンブレンの配置後、その領域は軟組織の閉鎖によって保護されなければなりません。この術式において、口蓋または上顎結節から遊離歯肉移植をします。歯肉弁歯冠側移動術や口蓋における有茎部分僧弁冠状もまた創部の入り口を閉じるために使用できます。歯肉弁歯冠側移動術は頬側の歯肉頬移行部の変更の可能性があるので、審美領域に侵襲を与えることを考慮する必要があります。抜歯窩の閉鎖目的で膜またはフラップ伸展の代替法として、吸収性ポリラクチド-ポリグリコリド酸スポンジなどの軟組織代替物を使用することができます。
抜歯後に頬側骨の歯槽骨が無償の場合、歯槽骨温存にはフラップレスアプローチを使用します。まず、軟組織を丁寧に剥離後、膜を歯槽骨の外表面と頬側軟組織の間に置きます。次に移植剤が抜歯窩におかれます。この手順の最後は、抜歯窩周囲の軟組織の下に膜を配置することによって完了します。この手法では、メンブレンが軟組織の閉鎖を手助けることに注意してください。
抜歯後に頬側骨が欠損している場合は、全層の粘膜骨膜弁を持ち上げ、膜を留置して抜歯窩とグラフト材料を覆い、治癒の最初の数週間は頬側壁として機能させる必要があります。吸収性または非吸収性膜を使用することができます。フラップの閉鎖中は、膜を軟組織で完全に覆う必要があります。
生体材料を抜歯窩に配置し、続いてその領域をメンブレンとフラップで、または軟組織代替材のみで覆った後、インプラントを配置するまでその領域を4〜6か月間治癒させておきます。治癒期間は、抜歯窩のサイズによって異なります。臼歯部は6か月間、側切歯部は4か月間待機することをお勧めします。一般に歯槽骨温存は、抜歯窩内の骨形成の程度と残存移植材が伴います。これは、使用する材料と技術によって異なります。歯槽骨温存では、抜歯後に起こる歯槽骨の変化を100%防ぐことはできません。このようにインプラント埋入のために十分な骨が保存されたとしても、歯槽骨がある程度平坦になってしまうことが予想されます。上顎前歯部領域では、この欠損を補うために、インプラント埋入時に軸面の補強や軟組織移植などの追加の手順が必要になる場合があります。
テクニックと治癒の成果、重要なポイント:抜歯窩壁への不要な損傷を避けるために、低侵襲の抜歯を行う必要があります。抜歯窩は宿主側の歯槽骨に対し、足場としての骨に置換される反応をする生体材料で移植されなければなりません。移植剤は膜や完全な軟組織閉鎖もしくは軟組織代替材によって保護されなければならないです。頬側ソケット壁の欠如を補うためにバリア膜を使用する必要があります。インプラントの配置に十分な骨がある場合でも、埋入時にさらに組織の増強が必要になる場合があります。
歯槽骨の保存は、時々合併症を引き起こす可能性があります。これらは主に創傷の治癒と細菌汚染に関連しています。一般的な合併症には、感染、抜歯窩を覆う軟組織の裂開、歯肉移植片の壊死、移植片材料を覆う膜の露出、および移植材自体の露出があります。
特に、フラップを剥離翻転した時、または一時閉鎖期間における不十分な口腔衛生の場合、感染は治療中の汚染が原因である可能性があります。急性炎症の典型的な臨床徴候、すなわち腫れ、痛み、化膿が観察された場合、患者は機械的および消毒的なプラークコントロールによって治療されるべきです。潜在的な化膿の原因を特定する必要があります。これはほとんどの場合、頬側骨の外表面を覆う軟組織です。感染部位におけるクロルヘキシジンによる大量の洗浄が、細菌、膿、および汚染された生体材料を除菌するために、注射器と鈍端な針で行う必要があります。抗生物質による全身投与が必要になる場合があります。感染の原因が抜歯窩の場合、感染した生体材料をすべて除去し、歯槽骨温存術が失敗したとみなす必要があります。徹底したプラークコントロールが、急性炎症の臨床的兆候がなくなるまで行われるべきです。抗生物質投与もまた実施すべきです。もし感染により歯槽骨温存が不完全になる場合は、インプラント埋入時に歯槽骨増設術を行う必要があります。
フラップが剥離翻転するときはいつでも、その張力が強すぎると軟組織裂開が生じることがあります。この裂開により適用された膜が露出する可能性があります。膜が吸収性である場合、軟組織裂開および露出した膜は、機械的および消毒液によるプラークコントロールによって治療されるべきです。通常、さらなる合併症がなければ軟組織は二次閉鎖で治癒します。膜が非吸収性である場合、露出域での完全なる感染を制御することが不可能であるため、除去する必要があります。遊離歯肉移植片は、十分な血管供給の欠如により、治癒中に壊死する可能性があります。壊死性した移植片は、細菌を引き付け、感染を引き起こす可能性があるため、除去する必要があります。抜歯後15日間、創部の閉鎖が維持されている場合は、遊離歯肉移植片の壊死を含む軟組織閉鎖の喪失は臨床的に重要ではありません。
合併症、主要な学習ポイント:可能性は低いですが、歯槽骨温存術後に合併症が発生するときがあります。創部閉鎖の喪失は、治癒後最初の15日以内に起こる場合に重大です。術後感染症は、2次的に行うフラッフ挙上の際の細菌増殖に関連していることがしばしばあります。感染の原因が移植された抜歯窩である場合、すべての移植材を除去する必要があります。歯槽骨温存の結果が理想的でない場合は、インプラント埋入時に歯槽骨増大術を行う必要があります。
歯槽骨温存術、モジュールの概要:歯槽骨温存術は、歯槽骨の水平方向の吸収を制限するのに効果的です。抜歯窩に使用される骨移植材および骨代用材は、吸収速度が遅い物を使用するべきです。抜歯窩壁の欠如を補うため、バリア膜を使用する必要があります。最適な結果を保証するには、完全な軟組織閉鎖が必要です。これはフラップの伸展、膜、または軟組織の代替材料によって達成できます。上顎前歯部領域では、軸面の骨増強のためにインプラント埋入時に追加の移植が必要になる場合があります。歯槽骨温存術には合併症がないわけではありません。潜在的な合併症には、創部閉鎖の喪失、生体材料の喪失、術後感染、および歯槽骨温存術の失敗があります。
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