German GallucciによるITIアカデミーラーニングモジュール"ローディングプロトコル"へようこそ
日本語翻訳協力者: 小山田 勇太郎
インプラントが機能する時は,上部構造を接続した時とされている.最適な荷重プロトコルの選択は,治療計画の中で重要な過程である.インプラント治療を選択する時,あなたは臨床上重要な決断に直面している.このモジュールでは,荷重プロトコルの選択に関して様々な選択基準を示す.
このITIアカデミーモジュールの受講すると、即時荷重,早期荷重,通常荷重の定義を列挙,荷重のプロトコールの選択に関わる治療修飾因子を認識,様々な臨床の状況に従って適切な荷重のプロトコルを選択することが可能となる.
インプラントの荷重プロトコールはインプラントの埋入や補綴装置の装着の時間経過によって定義される.インプラントの埋入後に,臨床医はインプラントを荷重する適切な時期がいつであるかを決定するだろう.従来,デンタルインプラントは最終上部構造の装着までは暫間上部構造によって機能される.
インプラントの通常荷重はインプラント埋入後から2か月以降に補綴装置が装着されるものとして定義されている.通常荷重では骨とインプラント周囲の軟組織の完全な治癒が可能である.そのためにはインプラント埋入と荷重までの間に長い期間を要する.
インプラントの早期荷重はインプラント埋入後1週間から2か月の間に補綴装置を装着するものと定義されている.早期荷重のプロトコルでは,インプラントは骨の治癒の後期に機能される.軟組織については2か月までには治癒もしくはほとんど治癒している.このことからインプラント埋入と荷重までの期間が減少される.
通常荷重や早期荷重における暫間上部構造は,審美的に調和のとれるインプラント周囲の軟組織の形態の置換,咬合面形態の調整,設計されたインプラント上部構造の機能や形態の評価に対して応用される.このような場合にインプラントは通常荷重もしくは早期荷重のプロトコルによって荷重され,最終上部構造の装着.
通常荷重もしくは早期荷重は最終上部構造の装着によっても成立する.このような臨床状況は,臼歯部の単冠もしくは少数歯欠損のような審美的リスクの低い症例である.この手法では暫間上部構造の装着を必要としないため治療期間の短縮が可能となる.
インプラントの即時荷重は埋入手術当日を含む1週間以内に補綴装置を装着するものと定義されている.即時荷重は補綴装置を即時装着するため欠損期間を短縮する.即時荷重ではインプラント 周囲の骨と軟組織の治癒期間に機能的荷重が生じている.
即時荷重のプロトコルでは暫間上部構造の使用が推奨されている.暫間上部構造の装着は通常,インプラント埋入直後もしくは数日後に行われる.即時修復の手法は複雑な主義となることが多い.即時荷重後は最終上部構造への移行前に,インプラント周囲の骨と軟組織を完全に治癒させることを推奨している.
用語の定義,重要項目:荷重プロトコルはインプラント埋入と補綴装置装着までの時間経過によって規定される.通常荷重や早期荷重では暫間上部構造もしくは最終上部構造どちらも装着可能である.即時荷重では通常,暫間上部構造が装着される.
次に,治療修飾因子について見ていく.治療修飾因子とは,診断,計画,外科,補綴,定期管理の治療過程に関わる臨床的な要素であり,荷重プロトコルの選択に関わるものである.これらの要素は荷重プロトコルに対する適応症を決定する.それは患者の全身状態や局所的なリスク因子である.過去にインプラント体が脱落した部位,糖尿病や骨粗鬆症の患者,放射線治療の既往,喫煙や歯周病,ブラキシズムなどのリスク因子がある場合は,創傷治癒が阻害されるため通常荷重とするべきである.
インプラント体の初期固定や埋入トルクは外科処置に関する治療基準である.この2つの要素はインプラントの埋入時に決定される.最適な状況において,インプラントは埋入時の初期固定が獲得される.即時荷重を選択する場合には,初期固定はインプラントシステムにもよるが20-50 Ncmの範囲にするべきである.共周波数解析( Resonance frequency analysis: RFA)もこれらの要素の判断方法である.インプラント体の即時荷重を検討するには,少なくとも55 ISQ以上のRFAが必要である.
インプラント体の大きさや形態は,インプラント体自身に関する治療修飾因子である.これらについては少なくとも長さは10 mm,直径は3.3 mm必要である.理想的にはインプラント はマイクロラフサーフェイスであるべきである.
早期の荷重は骨の治癒や十分な骨結合を阻害するため,埋入と同時の広範囲の骨造成の有無は,荷重プロトコルの選択に重要な影響を与える.
次のアニメーションは,治療修飾因子の程度に合った荷重プロトコルの選択について示している.患者が医学的疾患やリスク因子を持つ場合,インプラント体の初期固定が得られない,または低い埋入トルク値である場合,インプラント埋入と同時に大規模な骨移植が必要である,または埋入するインプラントの直径を減らす必要のある骨量である場合には,通常荷重がプロトコルとして選択される.
患者が健康でリスク因子がない場合,初期固定の獲得,または高いトルク値が得られた場合,インプラント埋入と同時に骨移植がない,小規模な骨移植である,または通常の直径のインプラントが埋入できる骨量である場合,即時荷重が選択される.これら全ての治療因子は,早期荷重や即時荷重を選択する際に検討しなければならない.つまり,これらは様々な臨床状況についての荷重プロトコルに関するガイドラインである.
治療修飾因子,重要項目:一つでも治療修飾因子があれば通常荷重となる.インプラントの初期固定と埋入トルクはインプラント埋入時に評価される.医学的疾患やリスク因子を認めた場合には,インプラントの種類を確認する.
適切なインプラントの荷重プロトコルについての臨床的な提言は,第5回ITIコンセンサス会議の結果に概説されている通りに,臨床例に沿って次のセクションで説明されている.単冠,複数歯欠損,全顎にわたる固定性上部構造(FDPs)や可撤性上部構造(RDPs)について各々の提言が示されている.
はじめに,単冠のインプラントの場合について示す.顎堤を3部位に分けて3つの荷重プロトコルが表中に列挙されている.インプラントの通常荷重は全ての部位において上顎,下顎問わずに予知性がある.前歯部や小臼歯部において,単冠のインプラントの早期荷重は,インプラントの残存率や周囲骨の安定性の点から,予知性の高い治療法である.しかしながら,軟組織に関するデータは,審美的なリスクの高い部位に対しては,単冠のインプラントの早期荷重を一般的手法として推奨するには十分ではない.そのような部位への早期荷重は注意を払い,熟練した臨床医によってのみ行われるべきである.ITIのSAC分類によると,即時荷重は難度の高い複雑な治療として検討されている.下顎の臼歯部における即時荷重は予知性のある治療法であり,臨床的な利点のある症例においては一般的に推奨される.上顎大臼歯部への単冠の即時荷重に関するデータはわずかである.それゆえ,本手法は一般的には推奨されない.上顎大臼歯部へは通常荷重を選択するべきである.
複数歯の欠損への荷重プロトコルについて見てみよう.通常荷重は上顎,下顎ともにどの部位に対しても予知性がある.治療修飾因子のない場合,マイクロラフサーフェイスのソリッドスクリュータイプの埋入後4から8週後の早期荷重は予知性のある治療法である.抜歯窩治癒後の即時荷重に関しては,臼歯部の複数歯欠損に関しては予知性があるとされる.しかしながら,その臨床的利点は少ない.前歯部への即時荷重に関しては,治療法として確立される十分なエビデンスが少ないため,注意が必要であり熟練した臨床医により行われるべきである.
ITI SAC分類によると,FDPによる無歯顎治療は複雑な方法に分類されている.それゆえ,慎重な症例選択と治療計画立案,また同様に臨床医の持つ十分な知識,技術,経験が鍵となる.ワンピースの固定性上部構造による即時荷重,早期荷重,通常荷重はインプラント,上部構造ともに高い残存率を示しており,上顎と下顎ともに推奨されている.即時荷重による患者の利点には,固定性上部構造による即時の機能回復,術後の可撤性補綴装置による不満の改善や全体の治療期間の短縮などが含まれる.全顎の固定性上部構造へのインプラントの本数,大きさや配置は,荷重プロトコルに関わらず,インプラントの補綴設計,顎堤の形態,骨量に基づく必要がある.
インプラント支持や維持の全顎のRDPによる無歯顎への通常荷重や早期荷重は,治療修飾因子のない場合には一般的に推奨される.即時荷重のプロトコルは下顎に対して予知性が示されている.上顎の即時荷重に関するエビデンスは十分ではない.
荷重プロトコルへの提言,重要項目:荷重プロトコルは,様々な臨床状況において異なる結果を持つ.荷重プロトコルのガイドラインは治療部位へ依存する.即時荷重は難度の高い複雑な治療法とされている.
モジュール“ローディングプロトコル”,概要:荷重プロトコルは治療結果に影響を与えるだろう.通常荷重は全ての臨床状況で予知性がある.一つでも治療修飾因子がある場合は,通常荷重を選択する.早期荷重と即時荷重は全ての治療因子が最適な場合に選択される.荷重プロトコルの選択は各々の臨床状況に基づくべきである.